企業が自社の拡大をはかる際に事業間の関連を無視して多角化をすることは難しいです。
1つの事業で成功した企業は完全に0から次の事業に参入するのでなく成功している事業が築いている資産を利用して次の事業を展開する方が成功確率が高くなります。
この事業の展開の仕方を示しているのがアンゾフの成長マトリクスです。
名前にあるとおりアメリカでアンゾフという人によって1960年代に提唱されました。
この時代のアメリカではコングロマリットと呼ばれる多くの事業を抱えた大企業が存在していました。
複数の事業を全体的俯瞰しどういう方向で事業を展開すれば良いかを管理するために利用されるフレームワークです。
アンゾフの成長マトリクスは既存製品と新製品、既存市場と新規市場から組み合わせた4つに分類されています。
アンゾフの成長マトリクスの4つの展開
アンゾフの成長マトリクスは製品・市場マトリクスとも呼ばれ事業拡大を製品と市場の2つの軸で表現しています。
既存の事業が成長している際に次の方向性として考えるのが以下の4つです。
- 既存の製品を既存の市場でさらに多く売ることができないか
- 既存の製品を別の市場に売ることができないか
- 既存の市場に別の製品を売ることができないか
- 全く新しい製品を新しい市場に売ることができないか
最初の3つに関しては既存の製品、もしくは市場を利用するため拡大戦略と呼ばれています。
最後の1つだけは完全に新しい事業になるので多角化戦略と呼ばれています。
市場浸透戦略
既存市場に既存製品を投入する戦略を市場浸透戦略と呼びます。
現在の製品郡で現在の市場をより深くしていく戦略で、広告宣伝や価格などのマーケティング要素を有効活用して市場シェアの拡大を狙います。
新製品開発戦略
既存市場に新製品を投入する戦略を新製品開発戦略と呼びます。
既存の製品を改良する場合と、大きく変えた新製品する場合があります。
具体的には自動車などの製品でモデルチェンジするや新しい車を出すなどがあげられます。
新市場開拓戦略
新市場に既存製品を投入する戦略を新市場開拓戦略と呼びます。
既存製品を未開拓であった市場、新しい顧客層や土地などに展開する
具体的には海外進出やネットのみだったものをリアルで販売するなどがあげられます。
多角化戦略
新市場に新製品を投入する戦略を多角化戦略と呼びます。
これまでと違う新製品を既存の市場とは馴染みのないところへ投入します。
基本的には無関連多角化と呼ばれている戦略となります。
アンゾフの成長マトリクス企業例 - シナジーがない多角化は失敗する
アンゾフの成長マトリクスを実際の企業、ファーストリテイリング社を例に見てみます。
市場浸透戦略
国内で多くの店舗を展開して大規模なCMを使うことで国内のシェアを高めました。
新製品開発戦略
ヒートテックや有名デザイナーとのコラボなどを行うことで新製品を投入し売上向上を行っています。
新市場開拓戦略
欧米、アジアに店舗展開を行い、売り上げ拡大ができています。
2010年には800億の売上高でしたが2020年ではすでに国内の売上高を抜いており10倍の8,400億円になっています。
多角化戦略
洋服と同じように低価格で高品質にという考えのもと野菜事業に進出しました。
ユニクロで得ていた生産と流通の合理化スキルを発揮できると考えていました。
しかしフタを開けてみると30億円の赤字を出して撤退と惨敗することになりました。
ファーストリテイリングほどの企業であってもこのような失敗をしてしまうのですから無関連多角化の事業がとても難しいことがわかります。
アンゾフの成長マトリクス - 中小企業診断士試験の過去問チェック
企業経営理論の平成30年 第1問をチェックします。
企業経営理論 - 平成30年 第1問
企業の多角化に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 外的な成長誘引は、企業を新たな事業へと参入させる外部環境の条件であるが、主要な既存事業の市場の需要低下という脅威は、新規事業への参入の誘引となりうる。
イ 企業の多角化による効果には、特定の事業の組み合わせで発生する相補効果と、各製品市場分野での需要変動や資源制約に対応し、費用の低下に結びつく相乗効果がある。
ウ 企業の本業や既存事業の市場が成熟・衰退期に入って何らかの新規事業を進める場合、非関連型の多角化は、本業や既存事業の技術が新規事業に適合すると判断した場合に行われる。
エ 事業拡大への誘引と障害は、企業の多角化の形態や将来の収益性の基盤にまで影響するが、非関連型の多角化では、既存事業の市場シェアが新規事業の市場シェアに大きく影響する。
オ 内的な成長誘引は、企業を多角化へと向かわせる企業内部の条件であり、既存事業の資源を最大限転用して相乗効果を期待したいという非関連型多角化に対する希求から生じることが多い。
正解:ア
アの内容
外的な成長誘引とは成長している市場があることを指します。
そして自社の既存事業の市場が落ちてきているのであれば新規事業を考えることは十分にありえます。
よってアの内容は正しいです。
イの内容
相補効果と相乗効果の説明が逆になっています。
相補効果(コンプリメント)は複数の事業の組み合わせにより、各製品事業分野での需要変動や資源制約に対応し効果を得ることができます、足し算的な効果です。
相乗効果(シナジー)は情報資源を同時多重利用することで発生する効果で、掛け算的な効果です。
よってイの内容は誤りです。
ウの内容
本業や既存事業の技術が新規事業に適合する場合に行う多角化は非関連ではなく関連多角化です。
よってウの内容は誤りです。
エの内容
既存事業の市場シェアが新規事業の市場シェアに大きくするのは非関連の多角化ではないです
アンゾフの成長マトリクスでいう新製品開発戦略で拡大戦略です。
よってエの内容は誤りです。
オの内容
既存事業の資源を最大限利用できるのは非関連多角化ではなく関連多角化です。
よってオの内容は誤りです。
『アンゾフの成長マトリクスとは?市場と製品の軸と4つの分類』 - まとめ
アンゾフの成長マトリクスのポイントとしては以下のとおりです。
- 製品軸(既存、新規)と市場軸(既存、新規)を元に4つの分類を行う
- 多角化戦略(製品、市場ともに新規)の場合は多角化戦略でその他の3つは拡大戦略と呼ぶ
- 多角化戦略は市場と製品ともに関連性が低い無関連多角化を意味する
多角化する際に企業がどのような切り口で事業を行っていくかを検討するベースとなる考えです。
2つの軸と4つの分類の関係をおさえておきましょう。